借金王は“指名手配”する中国…「私立に通うな」「飛行機にも乗るな」行動制限で締め上げ
不良債権や、債務の滞納は、どの国においても深刻な問題だ。米国では少なくない州が「サイバーシェイム」といったサイトを開設し、税金の滞納者については「シェイム(SHAME 恥)」として実名を公表することで回収に効果を上げているという。中国でも債務の回収をめぐっては、実名公表の手段がとられているが、より強硬だ。主要な鉄道駅やショッピングセンターなどで、裁判所の決定により、債務の返済が滞っている企業経営者の氏名などが記された掲示板が高々と掲げられているのだ。これは、滞納者を「恥さらし」として世間に公表することで、悪質な返済逃れを許さない姿勢を示しているのだが、効果のほどは…。
駅のスクリーンに…
ロイター通信が報じたところでは、この夏、上海の主要駅2カ所で、個人の債務者や事業主ら20人の住所、氏名、負債額などがスクリーン上に映し出された。写真も添付されていたケースもあったという。負債額は日本円で数千万円規模だ。
「滞納者公表」は、裁判所が実施。上海の鉄道運輸裁判所は氏名などの公表について「不誠実な債務者を防ぐ重要な戦略だ」と発表したそうだ。
住所、氏名などを公開することは、返済を逃れている債務者を「恥さらし」として世間に認知させることに加え、債務者の中には、すでに行方をくらましている者もいるため、市民らに情報提供を求める狙いもあるという。
中国では経済規模が急速に拡大したものの、いまや減速傾向にあるだけに、負債を抱え込む企業も増加。返済の常套(じょうとう)手段である資産凍結や差し押さえなどでは追いつかない状況といい、こうした強硬策が用いられている。
遠出もムリ
住所、氏名など個人情報の公開では、プライバシーの問題が浮上しそうなものだが、中国の有識者は「プライバシー権を主張できるのは、それにともなう義務を果たすことが前提だ」と語っていると、ロイターは伝えている。
またロイターは、返済が滞る債務者に対する中国での厳しい措置も紹介。裁判所が、こうした債務者が飛行機や高速鉄道などの交通機関を使うことを禁止したり、子供を私立学校に通わせることも禁じたりするという。要は、遠出したり、私立に行くくらいなら「借金を返せ」ということのようだ。
実際、こうした措置を可能にした法律の施行以来、80万人近くが鉄道の乗車を、400万人弱が飛行機への搭乗を制限されているという。
情報提供は…
では、債務者個人情報の公開の効果はどうか。
ロイターによれば、公開された債務者について、市民らから寄せられた情報はほとんどなかったそうだ。情報提供者への謝礼や報奨金などがなかったことも影響したかもしれないとしている。強硬策も功を奏していないのが実情のようだ。
日本でも、神奈川県小田原市が税金滞納者の氏名を公表するとした条例を10年以上前に施行したことで話題を呼んだが、国内では氏名公表は一般的ではない。
中国のように、債務者をいわば“指名手配犯”のように扱うのは、その債務の中身によっては大きな問題をはらむことになる。ただ、税金にしても借金にしても、返済逃れは倫理的、経済的に万国共通の問題といえる。