9/15(金) 7:10配信
和士が被害者に宛てた手紙の写し。「きちんと誘いを断っていたら」と悔やむ(写真を一部加工しています)
「おれおれ詐欺」など特殊詐欺の刑事裁判で、被害者から通帳・キャッシュカードを受け取る「受け子」や現金を引き出す「出し子」など実行役を務めた若者の多くが、法廷で初めて自らの「罪の重さ」を突きつけられる。裁判を通じ、その事実とどう向き合っているのか―。コンビニエンスストアに勤めながら弁償を続ける北海道に住む若者を追った。
7月下旬。北海道石狩管内に住む和士(24)=仮名=は、判決を10日後に控えていた。真面目な印象で、ごく普通の青年に見える。だが、道内を拠点にした特殊詐欺グループに出し子や連絡役として加担。高齢者4人から計479万円をだまし取ったとして、今年2月に詐欺罪などで起訴された。
「グレーな仕事だが、金になるよ」。1年半前、かつて働いていた職場の元上司で、グループの主犯格とされる指示役の男(33)=詐欺罪などで公判中=から声を掛けられた。面倒に思い、断ると、代わりに知人を紹介するよう頼まれた。「未成年の女の子がいい。(現金を引き出す際に)マスクやサングラスをしていても怪しまれないから」。10代の少女を元上司に引き合わせた。
出し子も1度経験した。元上司から渡された通帳を金融機関の現金自動預払機(ATM)に入れた。しかし既に取引停止後で、引き出しに失敗。だが、その後も断り切れずに連絡役は続けた。一連の犯行で手にした報酬は15万円だった。
逮捕後の警察の取り調べで、少女が高齢者4人のキャッシュカードから計479万円を引き出していたと知った。長年働いて、ためたお金だったとも聞いた。
裁判中に保釈され、コンビニエンスストアで深夜のアルバイトを始めた。週5~6日、午後9時から翌朝まで働き、7月の給料は約18万円。うち15万円を被害者4人に分割して送った。今後も毎月、給料の約8割に当たる18万~19万円を被害者に送り、被害全額479万円の弁償を目指す。
8月。札幌地裁は和士に懲役3年、執行猶予5年の判決を言い渡した。実刑を覚悟していた和士。「弁償は大変だが、それが自分の罪の重さ。時間はかかるけど、自分の手で得たお金で返していきたい」。給料の大半を弁償に費やす日々は、2年以上続く。