産経新聞 2015年12月31日(木)10時42分配信
平成27年本紙政治部記者が選ぶ政治家オブザイヤー(写真:産経新聞)
「2015年に活躍したアスリート」(博報堂DYメディアパートナーズ調査)に、ラグビー・ワールドカップ(W杯)で日本躍進の立役者となった五郎丸歩選手が選ばれたそうだ(女子はフィギュアスケートの浅田真央選手)。1年前には、よほどのファンにしかその名前が知られていなかったであろう五郎丸選手だが、いまやキック前の「ルーティン」で見せる独特なポーズを、全国のチビっ子たちやいい歳した大人たちも真似したがるほどの人気だ。
まさに「今年のヒーロー」と呼ぶにふさわしい活躍ぶりだが、ここでふと思った。今年1年間の「政界のヒーロー・ヒロイン」は誰なのか、と。そして、今年最後の「政治デスクノート」では、彼ら彼女らの活躍ぶりを書き記しておきたい、と。そこでさっそく、本紙政治部の精鋭たちにアンケートを実施した。
年末進行の慌ただしい時期にもかかわらず、23人が協力してくれた。今年活躍した政治家を3人選んでもらい、1位票=5点、2位票=3点、3位票=1点で集計した。結構わくわくしながら集計作業にあたったのだが、結果は、まあ、常識的というか意外性がないというか、当たり前のところに着地した。
結論から書くと、安倍晋三首相と菅義偉官房長官がくしくも同率首位。「官邸主導」とか「1強多弱」とか言われた今年の政治状況を、そのまま反映した結果ではある。
ちなみに1位票は、安倍首相がダントツで首位。安全保障関連法の成立や環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の大筋合意、日米・日中韓関係の再構築など、「『物事が前に進む政権』を印象づけた」(若手記者)ことが高い評価につながったようだ。
さらに、「これだけの難題に挑み、内閣支持率が不支持率を上回っているのはすごい」(中堅記者)、「東日本大震災の被災地への視察もほぼ毎月欠かさず行った」(若手記者)という意見もあった。
ある女性記者は「個人的には、戦後70年談話で次世代に『謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません』と明言したことが最大の評価点。21世紀を担う子供を持つ母親として、とてもうれしかった」とのこと。ただ、「自民党内がイエスマンばかりになり、後継者の育成も進んでいない」(若手記者)との指摘があったことも付記しておきたい。
「抜群の安定感と突破力」(ベテラン記者)で首相と肩を並べたのが菅氏。「霞が関や与党にもにらみを利かせ、政権へのダメージコントロール能力は今年もピカイチ」(中堅記者)。若手記者によると、ある防衛省幹部は「政治がぶれないので、防衛省、警察、海保も迷わず仕事ができる」と話していたそうだ。
特に、年末の軽減税率で自民、公明両党の協議が難航し、「危うく『決められない』に陥るところで自ら采配を振った」(中堅議員)ことは、「官邸主導の政治はこの人あってこそ」(若手記者)を強く印象づけた。
一方、「軽減税率での対応は利権政治への先祖返りを彷彿させる」(同)とか「『官邸主導』が際立ちすぎると、国民に強引な印象を与えかねず、自民党内の不満も増幅する」(同)など、その際だった政治手腕を認めながらも、行き過ぎを危惧する声があったのも事実。いずれにしても、「最近では珍しい剛腕政治家」(同)として、良くも悪くも菅氏の「“ドヤ顔”が目立った」(ベテラン記者)1年だったといえる。
「本紙政治部記者が選ぶ政治家オブザイヤー」に安倍、菅両氏が輝いたのは、ある意味当然の結果といえるが、3位以下は今年ならではの顔ぶれが並んだ。
3位に食い込んだ橋下徹前大阪市長は「住民投票で敗北した大阪都構想を、再び大阪ダブル選の争点に位置づけて圧勝。維新の党の分裂騒動でも国会議員を相手にケンカ上手をみせつけた」(中堅記者)。「これだけ見せ場を作れる政治家はいない」(若手記者)との評価する声がある半面、年末の市長の任期満了であっさり政界を引退してしまったことから「無責任」(中堅記者)との批判もあった。
いぶし銀のような存在感を発揮したのが、自民党の高村正彦副総裁。「安保法制での整然とした説明と指導力」(ベテラン記者)で、1位票を投じる記者もいた。
想定外の5位に入ったのが共産党の志位和夫委員長。確かに、こんなに共産党の原稿を掲載した1年は、近年なかった。野党勢力の結集を訴えてぶち上げた「国民連合政府」構想が大きな注目を集めたことは、「(野党第一党の)民主党が立ち直っていないことを浮き彫りにした」(ベテラン記者)ともいえる。ただ、ある若手記者がなぜか、「こびない、ぶれない共産党ではなかったのか。がっかり」と怒っていたのが印象的だった。
さて、「活躍した政治家」と選んでもらうついでに、「期待を裏切った政治家」も挙げてもらった。失礼だとは思うが、少しだけ紹介したい。
ぶっちぎりで首位だったのが、自民党の船田元・前憲法改正推進本部長。理由は、憲法改正を目指す自民党の責任者なのに、安保関連法を「違憲」と主張する学者を自民党推薦の参考人に選んだ、その1点。記者たちも「国会日程(政治日程)ばかりか安倍政権の支持率にも影響を与えた」(ベテラン記者)、「別に期待していなかったが、その罪は重い」(中堅記者)、「憲法改正に向け、野党との調整力を期待していただけに残念」(若手記者)と口々に船田氏を非難。
一つの判断ミスが、一人の政治家の評価をこうまで失墜させてしまうものなのか。まさに、「政界一寸先は闇」である。
たぶん、ランクインしているだろうなと思っていたら、きっちり2位に入っていたのが石破茂地方創生担当相。多くの記者を失望させたのが「首相を目指すための派閥『水月会』の準備会合を開いたのが、自民党総裁選の告示日の9月8日だったことなど、TPOをことごとく無視」(中堅記者)する政局感のなさ。「(3年前の)安倍政権発足時は『安倍・石破』の2枚看板だったのに」と、その落日ぶりに驚く若手記者の声も。
3位の野田聖子・自民党前総務会長が「期待を裏切った」とされた理由もはっきりしている。「自民党総裁選に出馬の決意を表明しながら、最後は切り崩された」(ベテラン記者)こともさることながら、南シナ海で中国が進める岩礁埋め立てなどについて、「直接日本と関係ない」と発言したことは、「総裁選で推薦人になろうとしていた議員すら『失望した』」(中堅記者)と受け止められた。
そして、いよいよ高木毅復興相の名前が登場する。高木氏に関してはもう、くどくどと説明するまでもあるまい。就任直後から週刊誌に報じられた“パンツ泥棒”疑惑の釈明に追われ、「肝心の被災地復興が二の次になった」(若手記者)ことだけは間違いない。まもなく召集される通常国会でも、針のむしろが続きそうだ。
ここまで、「ベスト」「ワースト」ともに、野党第一党の民主党議員の名前が出てこないことにお気づきの方もおられるだろう。この存在感のなさが、今年の民主党を象徴しているといえそうだが、岡田克也代表が、かろうじて「期待を裏切った議員」の5位に滑り込んだ。
「党勢がいっこうに回復しないまま1年を終えようとしている」(若手記者)のは、何とも寂しい限り。「まともなリベラルが政権批判票を託せる受け皿になるべきなのに、まともでないリベラルにすり寄って活路を見いだそうとしている」(同)という痛烈な批判に、岡田氏はどう答えるのだろうか。(政治部次長 船津寛)