むかしむかし、一休さん(いっきゅうさん)と言う、とんちで評判の小僧さんがいました。
一休さんのとんちには、さすがの和尚(おしょう)さんもかないません。
けれど和尚さんは、
「いっぺんでもよいから、一休をへこませてやりたいもんじゃ」
と、いつも思っていました。
ある晩の事、よい事を思いついた和尚さんは、一休さんに用事を言いつけました。
「これ、一休や。
わしはうっかりして、本堂のローソクを消すのを忘れてしもうた。
火を出しては仏さまに申し訳ないから、消してきておくれ」
「はーい」
一休さんは大急ぎで本堂へ行きましたが、ローソクの台が高くて手が届きません。
そこで一休さんは高く飛び上がって、
「ふーっ」
と、息で吹き消したのです。
やがて部屋へ戻って来た一休さんに、和尚さんがたずねました。
「おお、ご苦労じゃったな。じゃが、あんな高い所の火を、どうやって消したのじゃ?」
「はい、ピョンと飛び上がって、息で吹き消しました」
その言葉に、和尚さんはニヤリと笑うと、
「馬鹿者!
仏さまに息を吹きかけるとは、なんと失礼な!
もう二度と、するでないぞ!
わかったな!」
と、初めて一休さんをしかりつけたのです。
「すっ、すみません・・・」
一休さんをへこませた和尚さんは、してやったりと得意顔です。
さて次の日、和尚さんが本堂でお経をあげていると、何だか後ろの様子が変です。
和尚さんがふと振り返ってみると、なんと一休さんがお尻を向けて座っているではありませんか。
「ふん。いくらとんち上手でも、やはり子どもじゃ。昨日しかられたので、すねておるんじゃな」
和尚さんは、そう思い、
「これ一休。お経をあげる時は、仏さまの方を向かんか。行儀が悪いぞ」
と、得意そうに注意をしました。
すると一休さんは、待ってましたとばかりに言いました。
「和尚さん。
仏さまの方を向いてお経をあげては、息がかかりますよ。
仏さまに息を吹きかけるのは失礼だと、和尚さんが言ったではありませんか?」
それを聞いて、和尚さんはポリポリと頭をかきました。
「・・・いや、これはやられたわい」
おしまい